殺人未遂で捕まったのは運転手ですわ。でもコメント欄で裁かれていたのは、轢かれかけた側でしたの
撮り鉄——列車の写真を撮る趣味の人たち——が、日本のコメント欄でどんな位置にいるのか。殺人未遂の記事の下で起きた「席の交換」を、初めて読む方に伝わるようにご説明しますわね。
コメント欄の集計
票を集めた順。左が共感、斜線の右が「うーん」ですわ。うっぷんがどこに溜まっているかは、ここに出ますの。
- 1位 4434 ∕ 86 動画を見ると確かにやり過ぎで、危険な速度のバックで死傷者が出てもおかしくなかった。しかし撮り鉄側も大人数で車道の半分を埋め、三脚を立て、マナーが悪すぎた。きっかけを作ったのは撮り鉄側で、取り締まるのは運転手だけでなく撮り鉄もだ、と
- 2位 3321 ∕ 89 今回の相手でなくても、脚立を乱立させ通行を妨げ、注意されれば大人数で罵詈雑言を浴びせる。あれではトラブルの火種を自分で蒔いている。野放しにすれば「傍若無人の成功例」を重ねさせるだけだ、と
- 3位 2705 ∕ 92 車をバックさせてまでやることではなく運転手が悪い。ただし、道路にはみ出した撮り鉄を運転手が注意し、撮り鉄たちが煽って暴言を吐いたのが発端に見えた。大勢で人を煽ればどうなるか、報復として返ってくることを知った方がいい、と
- 4位 2067 ∕ 41 踏切前の道路を一車線分占拠し、20人ほどで強気に煽り、通行の邪魔。自分らは悪くないと思って動画を上げたのかもしれないが、見ても全く同情できない。ただし轢いたら罪になるから通報がベスト、と
- 5位 847 ∕ 21 この手の事件は、事件になるまで警察に相談しても動かないことが多い。騒音のときもそうだった。事件が起きそうな事象を未然に防ぐという概念が、警察を含む行政から失われている、と
親コメント1,020件を読み通しましたわ。押された「共感した」は合計23,963回、「うーん」は合計2,687回——賛成90%ですの。ただし中身を数えると、撮り鉄のマナーに触れた声が334件・賛成の合計13,752回で、この欄の賛成全体の57%ですわ。運転手への同情をはっきり書いた声は38件・賛成の合計122回、「無罪を支持する」は賛成5・反対0——言葉どおりの英雄視は、ほぼこれだけですの。逆に、運転手を裁こうとした声は沈みましたわ——「実刑でいい」(賛成12・反対31)、「殺人未遂が適用されてもおかしくない」(賛成50・反対113)、「55年も生きてきたなら我慢を」(賛成21・反対23)、そして「轢いてもいいと書く人が多くて恐ろしい」(賛成34・反対272)。反対が上回ったコメントは156件=15.3%で、その多くが運転手を責める側でしたの。罪に問われた人ではなく、轢かれかけた側が裁かれた欄でしたわ。
8月14日の夕方、徳島県鳴門市の踏切の近くで、こんな事件が起きましたの。鉄道の写真を撮っていた19歳の男性に、55歳の男が暴行を加え、さらに乗っていた車をバックさせて、ひき殺そうとした疑い——男は殺人未遂などの疑いで逮捕されましたわ。男性にけがはありませんでしたの。男は「車をバックしたのは、びびらせてやろうと思っただけ」と、容疑を一部否認しておりますわ。
まず、言葉のご説明からですわね。撮り鉄——列車の写真を撮る趣味の人たちのことですの。日本は鉄道好きの多い国で、珍しい列車が走る日には、線路のそばに何十人ものカメラが並びますわ。そして残念なことに、この趣味は日本のニュースの常連ですの。線路への立ち入り、私有地への侵入、道路をふさぐ場所取り、注意した駅員への罵声——「撮り鉄のトラブル」は、それだけで一つのニュースの型になっておりますわ。今回の踏切にも、お盆の臨時列車を狙って大勢が集まっていた、と地元の方のコメントにございましたの。
もう一つ、この欄を読むのに大事なことですわ。現場を撮った動画が、ネットに出回っておりますの。コメントを読むかぎり、上げたのは撮り鉄の側——運転手の乱暴を告発するつもりだったようですわ。その動画がどう働いたかは、これからご覧に入れますわね。
わたくしが読んだのは、記事の配信から3日目の朝ですわ。親コメント1,020件、返信を含めて総数1,442件。いつもの数え方で、コメントに押された「共感した」を賛成、「うーん」を反対として合計しますと——賛成23,963回、反対2,687回。賛成90%ですの。
でも今日の欄は、割合だけでは読めませんのよ。その賛成が、誰に向かって流れたかが本題ですわ。
コメント欄の声を、支持の多い順にご紹介しますわ
1位の書き出しは、たしかに運転手を叱っておりますの。そのまま最後までお読みくださいませ。
動画を見ると確かにやり過ぎで危険なスピードでバックし多数の死傷者がでてもおかしくなかった。
しかし撮り鉄側もかなりの人数が車道の半分を埋めつくし三脚を建てヘラヘラしてかなり邪魔でマナーが悪すぎて不快でしたね。
このようなきっかけを作ったのは間違いなく撮り鉄側で取り締まるのはドライバーだけではなく撮り鉄も取り締まるべきです。賛成4,434・反対86ですわ。文の作りにご注目くださいませ。「死傷者が出てもおかしくなかった」と一文で運転手を有罪にして——「しかし」。そこから先は、全部、撮り鉄の裁判ですの。この「一文で運転手、残り全部で撮り鉄」という型が、この欄の上位をほとんど占めておりますわ。撮り鉄のマナーに触れた声は334件、賛成の合計は13,752回——この欄の賛成全体の57%が、罪に問われた人ではなく、轢かれかけた側の裁きに流れましたのよ。
3位は、その型のもう少し踏み込んだ形ですわ。
動画を見たが車バックさせてまでやることではなく運転手が悪い。ただし
撮り鉄達が踏切付近で道路にはみ出しているのを運転手が注意したのを撮り鉄たちが煽って暴言を吐いたのが発端のように見えた。
あと、彼らは他人を大勢で煽ったりしたらどうなるか想像ができないのか、中にはその行為は報復として返ってくることを知った方がいい。「報復として返ってくることを知った方がいい」——賛成2,705ですわ。轢き殺されかけた側に向かって、この欄は「どうなるか想像ができないのか」と言っておりますの。
4位(賛成2,067・反対41)には、動画の皮肉が書かれておりますわ——「自分らは悪くないと思ってるから動画を撮って上げてるのかもしれないけど、動画を見ても全く同情できない」。告発のつもりで上げた動画が、コメント欄では自分たちへの判決文になりましたの。 阿波おどりの欄で「撮る側」が裁かれたのとは逆向きに、今日は「撮る側」が動画で裁かれておりますわ。
では、運転手に味方する声はどれくらいございましたの? はっきり同情を書いた声は38件、賛成の合計は122回——欄全体の賛成のわずか0.5%ですわ。その中でいちばん大きいものがこちらですの。
おそらく容疑者に殺意は無かっただろうと思うが、脅すためとはいえ車を使ったら容疑は殺人未遂になっちゃいますね。
ただ、心情的には容疑者の方に寄り同情してしまいます。
国も自治体も各行政機関も鉄道会社も、どこも抜本的な撮り鉄対策をしないから、市民が直接抗議するしかなくなるわけです。賛成51ですわ。「どこも対策しないから、市民が直接抗議するしかなくなる」——昨日の公道ドリフトの欄で「警察は大会の前だけ動く」に票が集まったのと、同じ理屈ですの。実際、この欄の5位(賛成847・反対21)は「事件になるまで警察に相談しても動かない」ですわ。ルールを守らせる側が動かないという不信が、実力行使への同情の入り口になっておりますのよ。
「英雄視」は、ございましたの? 言葉どおりのものは、これだけですわ。
この人の無罪を支持するわ。
撮り鉄の妨害、集団心理からくる安心しきった自身らの反省のなさ、行き過ぎたワガママ、駅での駅員への態度。
もちろん、撮り鉄が同じ人物ではないにしても、動画を見ていたら、55歳男性の取った行動も致し方ない。
情状酌量があっても良いのではないか?賛成5・反対0。1,020件の欄で、「無罪」の文字はこの5票だけですの。
そして、いちばん大事な数字がこちらですわ。運転手を裁こうとした声が、どうなったか。「故意に轢こうとした点で、執行猶予なしの実刑でいい」は賛成12・反対31。「バックはかなりの速度で、殺人未遂が適用されてもおかしくない」は賛成50・反対113。「55年も生きてきたなら我慢を身に着けていないと」は賛成21・反対23。運転手の言葉を引いて「幼稚すぎる」と書いた声は賛成6・反対22。どれも沈みましたの。最深部がこちらですわ。
真に恐ろしいのは、ここで轢いても良いと書いている一方で普段車に乗ってる人々が多く存在するということ
潜在的殺人犯が大量にいるし、免許保持者には定期的に心理テストをして人を轢いても仕方ないと少しでも思ってるような人間からは免許を取り上げてほしい賛成34・反対272ですわ。この欄そのものを恐ろしいと書いた声が、この欄でいちばん深く拒まれましたの。
わたくしの見立て
数えて見えたことを、順に並べますわ。
第一に、「英雄視」は言葉としては起きておりませんの。「無罪を支持」は5票、同情をはっきり書いた38件も賛成の合計122回——欄の賛成全体の0.5%ですわ。日本のコメント欄は、殺人未遂の容疑者を「よくやった」とは書きませんのよ。
第二に、その代わりに、席の交換が起きておりますの。賛成の57%(13,752回)は撮り鉄の裁きに流れ、1位から4位までが「運転手はやり過ぎ。しかし——」の型ですわ。そして運転手を裁こうとした声——実刑を、殺人未遂の適用を、大人の我慢を——は、ことごとく反対を集めて沈みましたの。欄は加害者を褒めませんわ。ただ、被告席に座る人を取り替えますのよ。 轢かれかけた19歳の側が裁かれ、裁こうとした人がブーイングされる——「悪いことをした人が英雄視されている気がする」という感覚の正体は、票で見るとこの形ですの。
第三に、同情の入り口は、憎しみではなく制度への不信ですわ。「どこも対策しないから、市民が直接抗議するしかなくなる」(賛成51)。「事件になるまで警察は動かない」(賛成847)。昨日の公道ドリフトの欄の「大会の前だけ取り締まるな」と同じ理屈が、今日は実力行使への「気持ちは分かる」を支えておりますの。ルールの番人が眠って見えるとき、日本の欄は、目を覚まさせた者に少しだけ甘くなりますのよ。
第四に、外国の方へ。この欄でいちばん重い罪名は、殺人未遂ではありませんでしたの。「迷惑」ですわ。他人の暮らしの邪魔をする——道をふさぐ、大勢で煽る、注意を聞かない——この国では、それが票の上で何よりも重い罪ですの。クレープ店の欄で迷惑系配信者が38対1で裁かれたのも、今日、轢かれかけた側が裁かれたのも、同じ一つの掟ですわ——誰の迷惑にもなるな。なった者は、守られる資格を票で減らされますのよ。
わたくしは数え続けますし、見届け続けますわ。
引用はすべて原文ママで、出典を明記し、投稿者名は伏せています。引用は論評に必要な範囲に限っています。訳はわたくし。元記事は配信終了により閲覧できなくなる場合があります(取得日を記載)。本記事の主体は筆者の論評ですわ。