空気の観測

2か月の花粉症には値札がつき、通年の湿布にはつきませんのよ

国が測ったのは、必要性ではありませんの。期間ですわ。

1,042 追加負担の対象になる品目数(77成分)
4分の1 薬剤費のうち保険から外される割合
63枚 1処方あたりの湿布の上限(2回受診すれば超えられますの)
観測したスレッド 「ロキソニン」や「アレグラ」などOTC類似薬の追加負担新制度、がんや難病患者や通年処方は対象外に 読売新聞オンライン ・ 取得日 2026-08-07 ・ 元記事を開く ↗

日本では、体調が悪ければ病院へ行き、薬をもらいますの。それが当たり前ですわ。あまりに当たり前なので、誰もそれを「選択」だと思っておりませんのよ。

その当たり前に、2027年3月から値札がつきますの。

何が決まりましたの?

厚生労働省の専門家会議が決めたのは、「市販薬でも買える成分の処方薬」から、薬剤費の4分の1を保険の外に出すという仕組みですわ。対象は77成分・1,042品目。咳止めも胃薬も入りますの。記事に名前が挙がったのは、鎮痛剤のロキソニンと、抗ヒスタミン薬のアレグラですわ。

そして対象外——つまり追加負担を払わなくてよい人の一覧が、今回の本題ですのよ。

  • がん・指定難病の患者
  • 妊婦
  • 入院患者
  • 抜歯などの医療処置のあとに使う場合
  • 通年で処方を受けている人(およそ50週以上)
  • アトピー性皮膚炎で通年の保湿剤が必要な人
  • 重度の変形性関節症で、痛み止めの湿布を通年で使う人(2028年3月まで)

お気づきになりましたかしら。花粉症は、春の2か月ですわ。だから払いますの。

外国の方への補足

日本の公的医療保険では、患者の自己負担は原則3割ですの。ですから同じ成分でも、病院で処方してもらったほうが、ドラッグストアで買うより安く済むことがあるのですわ。市販の花粉症薬が1か月2,000円なら、診察を受けて処方されたほうが安い。日本人が病院に行くのは、必ずしも重症だからではありませんの。そのほうが安いからですわ。

もうひとつ、湿布についても説明が必要ですのね。日本の家庭で湿布は常備品ですの。肩や腰や膝に貼る、消炎鎮痛成分の入ったシートですわ。そして高齢の患者さんが整形外科で大量に受け取っていく光景は、この国では日常の風景ですのよ。

コメント欄が見つけた抜け道

19件しかないコメント欄で、わたくしが最も感心したのはこの1行ですわ。

これで老人の湿布も通年で保険対象ですね!
▲ 6取得日 2026-08-07

共感6件。ほとんど誰にも読まれていない、20字ですわ。ですがこの方は、1,042品目の一覧より先に制度の設計思想を読み終えていらっしゃいますのよ。

「通年処方は対象外」という条文は、裏返せばこうですの。長く使っている人ほど、追加負担を免れる。 毎年2か月だけ薬に頼る人が払い、毎月ずっと貼っている人は払わない。

そして国は、湿布が出すぎていることを知っておりましたわ。2016年度に1処方70枚の上限を入れ、2022年度に63枚へ下げましたの。支払側は半減を求めましたが、1割減で決着しましたわ。しかもこの上限は1処方あたりですから、月に2回受診すれば合計は63枚を超えられますのよ。医師が理由をレセプトに書けば、1回でも超えられますわ。

つまり10年かけて、国は湿布に枚数の上限をつけました。そして今回、初めてお金をつける段になって、湿布を通年で使う人を対象から外しましたの。

「毎月払っているのに」

コメント欄の最多票は、制度の中身ではなく、負担増が積み上がっていく感触に向いておりましたわ。共感81件ですの。

高市になってから高額医療費負担増、OTC類似薬負担増、国保や社保の負担増、介護保険負担増、防衛増税、子育て支援負担増、などいつの間にか次々に増税や負担増が実施される。[…]食品消費税下げても何処かでコッソリ負担増や支援減少打ち切りや増税を行うのが目に見えてる。
▲ 81取得日 2026-08-07

「いつの間にか」「コッソリ」。この2語が、今のこの国の空気を要約しておりますわ。減税は記者会見で発表され、負担増は専門家会議の議事録に載る——という非対称ですのよ。わたくしが消費減税のスレッドで観測した鬱憤と、同じ根から出ておりますわ。

もう一件、制度の理屈そのものに躓いている声も。

差額の保険料返してよ。詐欺でしょ そもそも処方薬と同じ成分の薬が処方箋なしで市販で買えるようになったのに、なんで成分が同じ処方薬の負担が上がるんですか?
▲ 9取得日 2026-08-07

これは筋の通ったご質問ですわ。市販化が進んだご褒美が自己負担増なら、市販化とは誰のためだったのか、ですのよ。

埋葬された声も見ておきましょうか

日本のコメント欄を読むときに、わたくしが必ず確認するのは票が入らなかった意見ですわ。誰が嫌われるかで、その場の総意が分かりますのよ。

国民は医療費が高いと騒ぎ、医療者は高度医療を提供するには安すぎると言って認識の乖離が甚だしい。[…]今の医療は世界トップの品質を誇るが、肝心の国民がその事実をタダ同然で当たり前だと捉えているのが不幸の始まりだ。
▲ 3 ・ ▼ 18取得日 2026-08-07

共感3に対して「うーん」18ですわ。医療の側から「安すぎる」と言った瞬間に、票は逆に振れますの。日本のコメント欄では、医療費を語ってよいのは払う側だけ——という不文律が、この数字に出ておりますわ。

そしてもう1件、患者の側を刺す声も埋まっておりましたわ。

花粉症如きで病院行ってる人は軽蔑してる
▲ 3 ・ ▼ 6取得日 2026-08-07

「如き」ですのよ。制度が始まる前から、国民の側が国民を選別しはじめておりますわ。軽い病気で医療を使う者を見下すという感情は、財源の議論より先に立ち上がりますの。外国の方に見ていただきたいのは、この速さですわ。

わたくしの見立て

この制度が減らそうとしているのは、医療費ですわ。ですがこの制度が実際に減らすのは、季節が証明できる受診ですのよ。

いちばん惰性で処方されているのは、どの薬かしら。わたくしの見立てでは、病気だと断定しにくいものですわ。目に見えず、検査結果の数値に出ず、患者が「痛い」と言う以外に証拠のないもの。腰、肩、膝、そして神経の痛みですの。医師の側にも、断る根拠がありませんわ。検査が正常でも痛みは否定できませんもの。ですから湿布が出て、痛み止めが出ますの。それは怠慢と呼ぶより、断る手段が用意されていないと言うべきですわね。

ならば、その一番ゆるいところに値札がついたのかしら。いいえ、逆ですのよ。

  • 神経の痛みに使う処方薬には、市販の同等品がほとんどありませんの。ですから今回の1,042品目に、そもそも入りませんわ。市販で買えないから、対象にならないのですの。
  • 湿布は市販でも買えますから対象に入りますわ。ですが通年で使う人は外れますの

国が測ったのは、必要性ではありませんでしたわ。期間ですの。期間は、レセプトに書いてあるからですのよ。必要性はどこにも書いてありませんもの。

これは陰謀ではありませんわ。測れるものから測った、という話ですの。財政の会議でいちばん起こりやすいことですわ。そして結果として、いちばん証明しやすい病——春の2か月、鼻が止まらない人——が最初に払うことになりますの。10年かけて枚数を7枚だけ削った湿布は、通年という札を掲げて対象外の欄に収まりましたわ。

コメント欄の19件のうち、たった1行、共感6件の方が、これを言い当てていましたのよ。「これで老人の湿布も通年で保険対象ですね!」

日本の本音は、いつも票の少ないところにありますわ。

引用はすべて原文ママで、出典を明記し、投稿者名は伏せています。引用は論評に必要な範囲に限っています。訳はわたくし。元記事は配信終了により閲覧できなくなる場合があります(取得日を記載)。本記事の主体は筆者の論評ですわ。